点滴を止める勇気(?)がいらない社会になりますように
うちの母、6月に87歳で旅立ちました。
日本にいる弟から、ご飯を食べなくなったと施設から連絡があった、ということで、
急いで日本に帰りました。ちょうどその夕方の飛行機があったので、翌日の午後には母のところに着きました。
弟は高速バスで早朝着いたということでした。
母は点滴を受けて、マスクで酸素を流していました。弟の話では、施設のお医者さんは1か月から2か月だと言っているということでした。
この施設は病院の隣にある老人保健施設です。もともとは体調を崩して入院などした高齢者が元気になって家に帰るためにリハビリとかをする目的の施設ですが、
今は看取りまで対応しています。
母は寝たきりになったので、グループホームから移りました。
入居したあと、看取りの話もして、私は、延命治療はしないでほしいとお願いしてありました。つまり、胃ろうとか、回復の見込みのない場合の点滴とかです。
それでも点滴をしてありましたが、今回は(も、というべきでしょうか)誤嚥性肺炎で、抗生物質を入れていると弟に聞けば、
抗生物質=薬ですから、点滴やめてって言っといたでしょ、とは、私にも言えませんでした。
母はまだ意識があり、母の言っていることはマスクで口が覆われているせいもあり、なかなか聞き取れませんでしたが、
ほら、空がきれいでしょ、とか、私が言うと、枕もとの空を見上げたり、母が私をねぎらってくれたり、コミュニケーションがとれる状態がはじめ1週間ぐらいはありましたか。
遠くのもうひとりの弟も週末に来て二日間いてくれました。
弟たちが帰って、私は毎日、ノートブックを持って、施設に行きました。私が行ってすぐ個室に移してくださったので、母とふたり、おりました。
職員さんがときどきやってきて、母の世話をしてくださいました。点滴で水が入っているので、下側になっていた手が、水膨れになっているのを見てへーえ、と思いました。
痰がどんどんたまるので、あら、寝ているのというような大きな寝息とかいびきのような音とかがしますが、起きているのです。
職員さんが来て、痰を吸引してくれます。吸引しているときは息ができないので、上手にする必要があるそうで、ともかく、痰の吸引はすごい音です。
引かれている間は苦しそうな音が聞こえます。
痰がたまる容器にはどんどん水量が増えていきます。
これが悪くすると2か月続くのか。私はここに2か月座っているのか。
空港で1週間借りてきたレンタカーを返すために空港に行って、帰ってくる途中の電車の中で、
実家にたくさん買ってあった高齢者関係の本のうちの、
「『寝たきり老人』のいる国いない国」-真の豊かさへの挑戦(大熊由紀子著)という本を読みました。
30年前に出された本ですが、古本で買っておいてありました。
この本が私の背中を押してくれました。感謝、感謝です。
思い立ったらすぐ行動したい私。
施設に戻ってから、がんばって(勇気が必要でした)、施設のケアマネさんに話しました。
点滴をやめてほしい、もし酸素が必要なら、マスクではなく、鼻のところに細いパイプをあてるだけにしてほしいと。
ケアマネさんは快く、お医者さんに話します、と言ってくれました。
バスに乗って地元のガソリンスタンドに行って、別のレンタカーを借りて戻ると、母の点滴は消えて、鼻のところには、カニューレがありました。
素早い対応に驚き、感謝。
点滴をやめて、母は静かになりました。息をする大きな音がなくなったのです。
吸引の装置は置いてありますが、必要がなくなりました。点滴のあとも数回は吸引したかもしれませんが、容器に水がたまらなくなりました。
母はときどき痰のからまった音を出しますが、自分で飲み込むのか口にためるのか、自分で処理できるようになりました。
ネットで検索すると水分を補給しなくなると、5日から1週間でなくなると出ていました。
母は6日で静かに旅立ちました。母も私も最後まで穏やかに過ごすことができました。あとのほうは、母は寝ているだけでした。
あの本を読まなかったら、私はまだあの部屋で座っていたかもしれません。
私が母のところに着いたのは6月11日。点滴を止めたのは18日。母がいったのは6月24日でした。
今日は8月7日ですから、十分ありえます。
あのあと、落ち着いてから、私は古本であの本を2冊買って、1冊はまだ高齢の両親がいる友だちに、もう1冊は介護サービスをやっている友だちにあげました。
私みたいに変な勇気をふるわなくてもいい世の中になることを祈ります。
それができるのは、やっぱりお医者さんじゃないでしょうか?
点滴を止めてと頼むのは、殺してと頼むようなものですよね。そういうつらいことを家族がしなくていいように、
何人もの高齢者と接して、回復の見込みはない、とわかっている医師が、点滴をしないという医療措置上の判断をしてくれたら、
高齢者も高齢者の家族も楽になるはずです。
30年前、介護保険もまだなかった時代の本を読んで、まだ変わってないなあ、と思いました。
あの本を読んだ介護サービスの友だちが、年取ったら北欧に住もうかと笑ってました。
北欧にもいろいろ問題はあるでしょうが。
ここオーストラリアは日本よりはましだけど、あの本に書かれた北欧にはほど遠いというところではないでしょうか。
先日も、高齢者施設での虐待の記事とかありました。
洋の東西を問わず、人間というのは同じようなものです。どうやって北欧ではそこのところを上手にカバーできているのか、学びたいです。
書き忘れました。回復の見込みのない終末期の高齢者の、百害あって一利なしの 点滴をやめたら、家族と、本人が助かるだけではありません。
医療費だって、回復する人たちにまわせるんです!
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